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奈良地方裁判所 昭和24年(行)9号 判決

原告 島田健治

被告 朝和村農地委員会

被告補助参加人 奈良県農地委員会

一、主  文

原告の被告朝和村農地委員会が別紙目録記載の宅地につき定めた買収計画並びにこれに基く、政府の買収の取消を求める訴並びに右買収計画に基く政府の買収及び買収令書発行の処分の無効確認を求める訴を却下する。

被告農地委員会が昭和二十三年十月一日奈良県山辺郡朝和村大字永原小字里の前四百二十八番地の一、二宅地百二坪同所四百八十九番地宅地四十八坪につき決定した買収計画の無効であることを確認する。

原告の其の余の請求を棄却する。

訴訟費用及び参加により生じた費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告朝和村農地委員会が、別紙目録記載宅地につき定めた買収計画並びにこれに基く政府の買収を取消す。被告農地委員会は前記政府の買収の無効であること並びに前記買収計画及びこれに関する公告、承認、買収令書発行の各処分がいずれも無効であることを確認せねばならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、其の請求の原因として被告朝和村農地委員会が昭和二十三年六月十一日原告の所有に係る別紙目録第一号記載宅地につき、同年十月九日同目録第二号記載宅地につきいずれも自作農創設特別措置法(以下自農法と略称する)第十五条に依り買収計画を決定し、其の各翌日公告し、同日以降十日間縦覧に供し、参加人奈良県農地委員会において同年九月四日前者の買収計画を、同年十二月一日後者の買収計画を承認した。しかしながら被告農地委員会が前記各買収計画を樹てるに先立ち、小作人側農地委員訴外中西一郎を遣わし原告の同意を求めたので、原告は非農家の買収申請は不当であることを理由に同意の調印を拒んだ。同委員も買収の不当なことを認めたから、被告農地委員会において買収申請を全部却下したものと考えていたところ、意外にも原告不知の間に被告農地委員会が被買収者を島田カツヱとして前記各買収計画を決定し、参加人農地委員会の承認を経て奈良県知事が買収令書を発行したことを、昭和二十四年六月二日同令書の交付に代わる公告がなされて始めて知つた。しかしながら前記各宅地買収計画並びにこれに基く公告、承認、買収令書発行の各処分はいずれも其の内容並びに形式において左記瑕疵違法がある。先ず形式的成立要件に関する瑕疵として、

(一)  本件買収計画が(イ)被告農地委員会作成名義の買収計画書なる文書を以つて表示せられるも、備付の議事録に徴すれば決議の内容と文書の記載とが一致しない。且つ決議を要する法定事項の全部が右文書に表明されていない。要するに右文書は法定の内容を具備する適式の買収計画書と認めることができない。(ロ)買収計画書は地区農地委員会なる合議体の行政的意思表示を表明する文書であるから、当該委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載並びに其の決議に関与した各委員の署名捺印あることを有効条件とするのに、本件各買収計画書は其の要件を欠いている。

(二)  地区農地委員会のする買収計画の公告は相手方に対する告知を内容とする行政行為的単独行為であつて、買収計画をして対外的に効力を発生させることの効果意思を以てなされる行政庁の準法律行為であるにかゝわらず(イ)本件公告はいずれも被告農地委員会の決議を経ていない。(ロ)又被告農地委員会のした公告でなく委員会長が其の名義を以てする単独行為で専恣無権限の行為である。(ハ)公告の内容は買収計画そのものを告知することを要するにかかわらず、現実になされた本件公告は単に縦覧期間と買収計画書所在場所を表示するに止まり、自農法第十五条第二項第六条所定の要件を欠き買収手続開始なる公法関係を発生させることができない。

(三)  参加人農地委員会が本件買収計画につきいずれも法定の承認決議をした外形存するも、右承認は(イ)被告農地委員会の適式な申請に基かない違法がある。即ち本件買収の対象が宅地であるのに、被告農地委員会が農業用施設買収計画に対する承認申請手続をしている。(ロ)参加人農地委員会の承認書が同委員会に依り作成せられていない。且つ被告農地委員会に対し告知がなされていないから承認なる行政処分は形式的成立要件を欠いている。

(四)  都道府県知事の買収令書発行なる行政処分は承認により確定した政府の買収を執行に移す行為であつて、買収令書が所有者に適法に交付せられて狭義の政府の買収が完了し、確定した買収を被買収者に告知すると共に対価を提供する行為であるところ、本件買収令書には誤記誤算があるから買収令書発行なる処分を違法ならしめること勿論である。

以上の手続上の各瑕疵は参加農地委員会の承認によつて確定した本件買収計画を、奈良県知事の買収令書発行なる行政処分により執行に移すまでの各処分を包括した広義の政府の買収をも違法ならしめる。外に右政府の買収並びに各行政庁の各処分の内容として共通する左記実体上の瑕疵がある。

(一)  本件買収の対象たる宅地はすべて原告の所有であることは、被告農地委員会において熟知するにかかわらず、島田カツヱを所有者として買収計画を決定したのは違法である。

(二)  本件各宅地は農業経営に必須な施設ではない宅地の主要部分は住宅の敷地であつて、若干の空地が存し此の部分が農業経営に利用されているけれども、宅地全体より観れば開放農地の利用上必要な施設とは言い得ないから、本件各宅地を買収するのは違法である。

(三)  本件各宅地買収は公簿上一筆の土地の一部につき買収を定めているが、宅地の一部の地域は所有権の客体たり得ない、従つて一筆の土地の一区域の坪数のみを表示して定めた本件買収計画は違法である。

(四)  本件各宅地の買収申請人はいずれも各宅地の賃借人でない。仮りに賃借権を有するとしても自農法による農地の売渡を受けた自作農でない。又専業農家若しくは将来農業に精進する自作農でない家庭菜園に等しい零細農地を耕作する飯米農家であるか、若しくは所得の大半を農業以外の職業より得ている兼業農家であるからいずれも宅地買収を申請する適格を有しない。

(五)  本件各宅地は朝和村における開放農地の区域外に所在し、其の環境より観れば農業利用地たる外観を呈するも農地改革の一環としてこれを買収することは国土経営の見地よりして明かに不当違法である。

(六)  本件各宅地買収の対価は時価を参酌して定めることを要するのに、財産税の物納評価基準により算定した結果坪当り金二百円以上の時価に比べ不当に低額である。坪当り金二十円内外の額を定めたのは違法である。

以上の手続並びに実体上の違法、瑕疵は本件各宅地買収計画及びこれに基く政府の買収なる行政行為の取消原因であると同時に、右政府の買収並びに買収計画及びこれに関する公告、承認、買収令書発行の各行政処分を裁判上無効ならしめる性質のものであるから、本訴において右各取消並びに無効確認の判決を求めると陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、昭和二十二年十二月自農法改正法律第二百四十一号に依る改正規定第四十七条の二に同年法律第七十五号民事訴訟法の応急措置に関する法律第八条所定の出訴期間の原則に対する特則が設けられたが、其の後昭和二十三年七月十五日行政事件訴訟特例法施行せられて後は同法第五条の原則規定が前記応急措置法第八条に代わり適用せられると共に、自農法第四十七条の二の特則規定は失効した。即ち特例法第五条第五項に所謂他の法律とは、同法施行後に制定せられた法律を指称する。従つて原告は奈良県知事が本件各買収計画に基いて各買収令書を発行したことを交付に代わる公告がなされた昭和二十四年六月二日知つたから、同日より起算し六ケ月内に提起した政府の買収の取消を求める訴は適法であると共に、地区農地委員会の樹立する買収計画は都道府県農地委員会の承認により確定し執行力を生ずるのであつて、違法な買収計画によつて権利を侵害される者は、承認のあつたことを知つた日から起算して六ケ月以内に買収計画の取消変更を訴求できる。自農法第十五条第二項第七条はいわば未完成の買収計画という行政処分に対し、予め不服申立権を附与する特則であつて、完成した買収計画に対する不服申立を制限する趣旨でない。従つて原告が承認のあつたことを知つた前記昭和二十四年六月二日より起算して六ケ月内に提起した本件買収計画取消の訴も適法であると附演した。(立証省略)

被告代表者及び参加人指定代理人は、本案前の答弁として原告の訴を却下する旨の判決を求め、其の理由として被告農地委員会は宅地所有者の意思にかゝわりなく、職権で宅地買収計画を決定すべきも村民の融和と買収手続の円滑を期するため、昭和二十三年六月上旬買収計画を決定する前農地委員中西一郎をして原告に買収申請あることを告知して同意を求めしめたのに原告は反対したので、他日法定の縦覧期間に正式の異議手続を採るべき旨を申添えたのにかゝわらず、原告は異議権を放棄したから訴願手続を経ないで提起した本訴は、行政事件訴訟特例法第二条に違背し不適法である。又奈良県知事が(イ)別紙目録第一号記載宅地の買収計画に基いて発行した買収令書は昭和二十四年一月十日頃、(ロ)同目録第二号記載宅地の買収計画に基いて発行した買収令書は同年二月十日頃、いずれも被告農地委員会を経て各交付の受領方を原告に督促したのに原告が受領を拒絶したので、同年六月二日交付に代わる公告がなされた。従つて原告が受領を拒んだ日から一ケ月内少くとも公告がなされた日から二ケ月内に出訴することを要するのに、自農法第四十七条の二に規定する右法定出訴期間の経過後に提起された原告の主張する政府の買収取消の訴は不適法であると述べ、本案につき原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として被告農地委員会が昭和二十三年六月六日原告所有の前記(イ)宅地の買収計画を決定し、同月十二日公告縦覧に供し、同年十月一日原告所有の前記(ロ)宅地の買収計画を決定し、同月十日公告縦覧に供し、参加人農地委員会が同年九月四日前者につき、同年十二月一日後者につきそれぞれ承認し、奈良県知事が前者に基いて同年十月二日附を以て、後者に基いて同年十二月二日附を以て買収令書を発行し、原告に交付の受領方を促したのに原告が拒絶したので、昭和二十四年六月二日右買収令書二通につき其の交付に代わる公告がなされたのである。以上の各買収手続につき原告主張のような瑕疵、違法あることを否認する。尤も参加人農地委員会がした右各承認につき、農地委員全員の署名押印した文書を作成して被告農地委員会に対し告知手続を採らなかつたことは原告主張の通りであるけれども、右手続の簡略化は承認行為の性質上処分自体を違法無効ならしめるものでない。又買収の基礎たる本件各買収計画の内容に原告主張のような違法がない。即ち、

(一)  被告農地委員会が本件各宅地の所有者を島田カツヱと表示して買収計画を決定したことは争わないけれども、右は政府の訓令に基いて土地台帳の表示に従つたのである。他の一般の例に従つて万一真実の所有権が原告にない場合の誤謬を避けるため、表示を公簿面に附合させたのであつて、殊更に所有者である原告の異議、訴願を妨げる意図に出たものでないから違法ではない。

(二)  本件宅地各筆の大部分が住宅の敷地であるとして、地上の住家納屋が買収申請人等の農業経営に利用されている限り宅地買収は相当である。

(三)  一筆の宅地の一部も所有権の客体たり得るのであつて、売渡手続のとき分筆すれば足りる。又本件各宅地買収につき予め買収部分を明かにする措置を講じたから違法ではない。

(四)  本件買収申請人はいずれも各宅地の賃借人であつて、其の大半は朝和村における農家一戸当りの平均耕作反別五反歩を上廻わる反別を農耕する純農家であり、一部兼業農家あるも被告農地委員会は慎重審議の上農業所得を主とする兼業であり、いずれも農業に精進する見込あるものと判断した。又買収申請人はいずれも農地開放を受けた自作農で、中には自農法第四十一条第一項第三号に依り政府所有の旧海軍飛行場用地を開発自作地として払下げを受けた自作農もあるが、自農法第十六条第一項に依り政府所有農地の売渡を受けた自作農との間に差異を認める理由がない。いずれにしても被告農地委員会に裁量を誤つた違法がない。

(五)  本件各宅地は其の地位環境よりしてこれを政府が自作農の経済的地位の安定に資するため買収するも、国土経営の国家的利益を害するものではない。

(六)  本件各宅地買収の対価として中央農地委員会議の定めた基準、即ち各宅地の賃貸価格に財産税法に基いて所轄国税局長が定めた六十五の倍率を乗じた価格を決定したから適正対価であるばかりでなく、対価の違法は国を相手とする増額請求の訴においてのみ主張することが許され、買収計画を攻撃する理由とすることができない。

以上の理由により原告の其の主張の各行政行為の無効確認の請求も亦理由がないと陳述した。(立証省略)

三、理  由

被告農地委員会が昭和二十四年法律第二百十五号に依る改正前の自農法(以下同じ)第十五条第一項第二号に依り、原告所有に係る(イ)別紙目録第一号記載宅地につき昭和二十三年六月六日買収計画を決定し、同月十一日公告し、翌十二日より法定期間縦覧に供し、原告所有に係る(ロ)同目録第二号記載宅地につき同年十月一日買収計画を決定し、同月七日公告し、同月十日より法定期間縦覧に供したことは成立に争がない。甲第二号証の一、二乙第三号証及び証人福岡藤市郎の第二回証言に依り認めることができ、参加人農地委員会が(イ)買収計画につき同年九月四日(ロ)買収計画につき同年十二月一日いずれも承認の決議をし、奈良県知事が前者につき同年十月二日附を以て、後者につき同年十二月二日附を以て発行した各買収令書の交付に代わる公告を昭和二十四年六月二日したことは本件当事者間に争がない。原告は本訴において右各買収計画の取消を求めるけれども、原告が出訴前に右各買収計画なる行政処分に対しいずれも自農法第十五条第二項第七条の規定に従つて異議、訴願の手続を経なければならないことは行政事件訴訟特例法第二条の規定するところであるのに、原告において訴願手続を経なかつたことは原告の自から認めるところであるから右買収計画取消の訴は不適法である。原告は被告農地委員会が本件各宅地が原告の所有であることを知りながら、ことさら島田カツヱを被買収者とする違法な各買収計画を決定したゝめ異議、訴願の機会を失つた旨主張するから按ずるに、被告農地委員会が本件各宅地の所有権者を島田カツヱと表示して各買収計画を決定したことは被告の認めるところであるけれども、成立に争がない甲第一号証及び証人中西一郎の証言、原告本人の供述によれば原告の実母島田カツヱが昭和二十年三月十一日死亡し、戸主原告が遺産相続により本件宅地所有権を取得しながら相続登記を怠つていたため、被告農地委員会が公簿上の記載に依り死者を被買収者と表示したが、右各買収計画を樹てる前予め原告に告知し不服あらば異議、訴願の手続を採るべきことを促したこと及び原告が縦覧期間内に右買収計画を知つて、被告農地委員会職員に対し不服の意思を表示したけれども、文書に依る不服申立手続を採らなかつたことが認められるから、被告農地委員会が誤つて買収計画に死者を所有者として表示したとしても、真の所有者の不服申立を妨げる意図に出たのでない限り、前示特例法第二条但書に所謂正当の事由ある場合に該当しないこと勿論であるから、原告の右主張は採用しない。更に原告は本件各買収計画に基く政府の買収の取消を求めるけれども、原告の言う政府の買収とは買収計画より買収令書の交付に至るまで一貫した宅地買収手続として、国の行政庁がする段階的行政処分を包括指称することは原告の主張するところに依り明かで、自農法が政府の行う買収を法定の自治的行政機関に委譲し、政府自ら右各行政庁のした処分を取消変更することの権限が認められていない以上、上級行政庁である都道府県知事が買収令書の交付により行う買収処分の外に、裁判により取消変更を求める行政行為として政府の買収なるものを認むべきか否か又訴訟法上これを認むべき利益があるか否かの判断は暫く措くとしても、原告の右取消の訴もまた所謂抗告訴訟である限り、処分庁としては奈良県知事を被告として政府の買収の取消を求むべきところ、被告農地委員会に対し提起した右訴は被告適格を欠くものとして不適法を免れない。原告は更に本件各買収計画に基く政府の買収並びに同計画に関する買収令書発行の処分が無効であることの確認を求めるから按ずるに、国の行政庁のした行政処分の無効宣言を求める訴は、公法上の権利関係に関する訴訟として民事訴訟法の原則に従い国を被告として出訴できると共に、前記特例法第三条に準じ当該処分庁を被告として訴を提起すべきものと解すべきところ、政府の買収の無効確認の訴は上級行政庁たる本件においては、奈良県知事を被告として訴を提起すべきこと前段説明に依り明かであり、又原告の言う買収令書発行とは都道府県知事が自農法第十五条第二項第九条に依り、買収令書を被買収者に交付することに依り行う買収処分を組成する手続行為であつて、それ自体独立の行政処分ではないけれども原告の主張するところは知事の行う買収処分の意味と解すべく、従つて前同様奈良県知事を相手として出訴すべきであるのに、被告農地委員会を被告として提起した右各訴はいずれも不適法として却下を免れない。次に原告は本件各買収計画に関する公告、承認がいずれも無効であることの確認を求めるけれども、市町村農地委員会の行う買収計画の公告は、買収計画という行政行為を対外的に効力を発生させる告知手続に過ぎず、それ自体独立の処分でないこと勿論であり、又都道府県農地委員会の行う買収計画の承認は、上級行政庁が下級行政庁に対して有する審査、監督権の行使たる性格を有し、利害関係人を相手とする行政処分ではない。従つて買収計画の公告と同様即時判決を以て其の無効であることの確認を求める法律上の利益がないから、原告の右各請求はいずれも棄却さるべきである。よつて進んで本件各買収計画が無効であるか否かにつき審究する。

(一)  原告は本件各買収の対象たる宅地がいずれも原告の所有であることを知りながら、被告農地委員会が島田カツヱを所有者として各買収計画を決定したのは違法であつて、右買収計画を無効ならしめる旨主張するから按ずるに、被告農地委員会が原告において本件各宅地につき相続登記をしなかつたため、相続人原告に対し本件各買収計画を決定するに当り、公簿上の所有名義に従い誤つて死亡者を表示したが、買収計画前予め原告に告知し、原告においても亦右誤謬の生ずる虞があることを予知し得たことが前示認定事実に依り窺い得られるばかりでなく、奈良県知事が前記(イ)宅地につき発行した買収令書を昭和二十三年十月末頃前記(ロ)宅地につき発行した買収令書を昭和二十四年一月末頃被告農地委員会を経て相続人原告に交付手続が採られたのに、原告が被買収者の表示が誤れること以外の事由で右各買収令書の受領を拒否したことが、証人福岡藤市郎の第一回証言に依り肯認できるから、買収計画書の形式に関する右違法は本件各買収計画を無効ならしめるものでない。

(二)  原告は本件各宅地は住宅の敷地であつて若干の空地は農業経営に利用されるも、大半の建物敷地は農業用施設であるからこれを買収するのは違法であると主張するけれども、右は自農法第十五条第一項に所謂農業用施設と宅地との区別を混淆する主張であつて、証人福岡藤市郎の第一、二回証言に依れば、本件各宅地の建物が農産物農機具収納等に使用されていることが認められるから原告の主張は理由がない。

(三)  原告は本件各宅地買収は公簿上一筆の土地の一部につき買収を定めているが、一筆の宅地の一部は所有権の客体たり得ない。従つて一筆の土地の一区域の坪数のみを表示して定めた各買収計画はいずれも無効であると主張するけれども、一筆の土地の一部でも所有権の客体たり得ることは勿論であつて、知事が自農法第四十四条の三、昭和二十五年農林省令第二号第三条土地台帳法第二十六条に依り分筆手続を採り得るから、一筆の宅地一部を表示するに坪数のみを以てするも、自農法第十五条第六条第二項の要件たる買収宅地の表示として欠くる所がないから原告の右主張は理由がない。

(四)  原告は本件各宅地の買収申請人は宅地につき原告に対抗する賃借権を有しないと主張するけれども、これを認むべき証拠がない。右買収計画当時各買収申請人において各宅地を占有することは原告の認めるところであるから、少くとも原告に対抗し得る使用貸借上の権利を有するものと推定さるべきであるから、原告の右主張は採るに足りない。又原告は本件各宅地買収申請人は純農家ではない零細農地を耕作する兼業又は飯米農家であつて、本人又は同居の親族、配偶者の主たる所得が農業以外の職業から得られていて、いずれも将来農業に精進する見込ない者であつて、宅地買受の資格を有しない旨主張するけれども、右は前記改正前の自農法第十五条第一項の解釈としては、被告農地委員会に委ねられた裁量権の範囲に属する事項で、仮りに原告主張のように法律に制限覊束せられた相当性の限度を超越して、被告農地委員会が各買収申請を是認した違法あるとするも、本件各買収計画なる処分自体を法律上当然無効ならしめるものではない。次に原告は本件各宅地の買収申請人は小作地の開放を受けた自作農でないと主張するから按ずるに、証人福岡藤市郎の第二回証言に依れば、買収申請人安田寅蔵を除く別紙目録記載の買収申請人十七名は、農地反別の広狭に差異あるけれども、悉く政府が自農法第三条に依り買収した小作地の売渡を受けて自作農となつた者であることを認められるから、前記十七名の買収申請に基く買収計画は適法というべきである。よつて安田寅蔵の買収申請により被告農地委員会の決定した前記(ロ)宅地の内奈良県山辺郡朝和村大字永原小字里の前四百二十八番地の一、二宅地百二坪同所四百八十九番地宅地四十八坪の買収計画の当否を審究する。成立に争がない甲第四号証の十四、同第六号証及び証人吉川茂の証言、証人福岡藤市郎の第二回証言に依れば、訴外安田寅蔵が従前朝和村大字永原領に田十一筆反別四反七畝二十七歩を所有耕作中内四筆反別一反八歩の田地を政府に買取られ戦時中海軍飛行場用地に使用されたが、終戦後参加人農地委員会が自農法第四十一条第一項第三号に依り農地に開発すべき土地と決定し、昭和二十二年十月二十一日奈良県知事の認可を得て旧所有者安田寅蔵の買受申込に依り、同年十一月一日右四筆の売渡計画を樹て、同県知事が昭和二十三年十二月一日これを認可し、昭和二十四年一月四日売渡通知書を交付したこと及び安田寅蔵が昭和二十三年六月前記宅地買収を申請したとき既に農地に復旧されていた右四筆の土地を旧所有者という理由で入植耕作して居り、他日政府より売渡を受け自作農となるべきことが予定されていたため、被告農地委員会が自農法第十五条第一項に定める同法第十六条第一項の命令で定める農地につき自作農となるべき者の買収申請に準じて扱い右申請を相当と認めて、前記宅地買収計画を決定したことが認定できる。自農法第十五条第一項は政府の買収する客体を制限的に明示すると共に、(イ)政府が同法第三条に依り買収する小作地又は小作地類似農地(ロ)同法第十六条第一項の命令で農地即ち同法施行令第十四条に定める市町村農地委員会が自作農創設に供することを相当と決定した農地(主として小作地)及び政府買収の小作地の交換農地につき自作農となるべき者の買収申請ある場合に限り、政府に買収権ある旨規定し、行政庁に何等の裁量権をも認めていないから、右制限を超えて国の行政庁が宅地買収を決定することは私有財産権の強制収用を規定する公法法規の運用上許されないことは明かで、被告農地委員会が自農法第四十一条第一項第三号所定の政府所有地の売渡を受ける安田寅蔵を、前記(ロ)の政府所有農地につき小作農となるべき者に準じて同人の右宅地買収の申請を容れ、前記買収計画を決定したのは法律の適用を誤つた違法の処分であることは疑がない。しかも前者は農地制度改革の主眼とする小作地開放であつて前記(イ)(ロ)農地の売渡を受ける者の保有反別及び人的制限を自農法施行令第十五条第十七条に厳重規定せられているのに反し、後者は単純な自作農創設施策の拡大に過ぎず、保有反別買受資格につき格段の法規上の制限がないことにかんがみるも、又旧所有自作地の所有権を回復した自作農に宅地買収の申請権を与えなければならない実質的な理がないことは、何人も容易に首肯できるであらうことに徴するも、被告農地委員会の法律の適用を誤つた違法は重大かつ明白な瑕疵で、右宅地買収計画の処分は法律上当然無効といわねばならない。しかして原告は右違法な処分により前記宅地所有権を失う恐れがあるから、右無効確認の判決を求めるにつき法律上の利益を有することは明かである。

(五)  原告は本件各宅地(前段認定の二筆を除く)は朝和村の開放農地の区域外に所在し、其の環境より観ればこれを買収することは国土経営の見地よりして明かに不当違法であると主張するけれども、右事実は本件宅地買収計画を違法ならしめるものでないから原告の主張自体理由がない。

(六)  原告は本件各宅地の買収対価を財産税の物納評価基準により算定した結果、坪当り金二百円以上の時価に比べ不当に低額である坪当り金二十円内外の額を定めたのは違法であると主張するけれども、被告農地委員会が本件各宅地買収の対価として財産税法の規定に従い所轄国税局長の定めた倍率を、各宅地の賃貸価格に乗じた金額を計上したことにつき当事者間に争がないから、被告農地委員会の右対価の決定が擅恣に出たものでないことは明かで、右対価の額が具体的に不当であることは、宅地買収計画なる行政処分の効力を争う違法原因として主張することが許されないものと解するから、原告の右主張も亦理由がない。

次に原告は本件各宅地買収計画及び公告の形式的成立要件につき、買収処分を無効ならしめる瑕疵ある旨主張するけれども、原告主張の各形式的瑕疵は未だ本件買収計画という被告農地委員会のした行政処分を法律上無効ならしめるものではないから、果して原告主張の手続上の瑕疵が存在するか否かの判断を待つまでもなく、此の点に関する原告の主張は採用しない。してみれば原告の本件各宅地買収計画は無効であることの確認を求める請求は、前段認定の限度において正当として認容し、其の余の部分を失当として棄却すべきものとする。よつて民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十四条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 南新一 坂口公男 中村一作)

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